こんにちは、Monosiri編集部です。
今回は米津玄師の中でとくにおすすめするアルバム「YANKEE」をピックアップしてみました。
初めて聴いたのは数年前。地元出身でおすすめのアーティストがいるよ。と、手渡された彼の複数の作品たち。実家の部屋の片隅で、当時一番聴いていたアルバムがこの「YANKEE」だったと覚えています。
メジャーレーベル移籍後初のオリジナルアルバム。そして初のバンド形態による制作。前作からの環境や心境の変化。呪いや悲しみと自分の居場所、祈りや願いと射し込む光。あなたへと向けた愛しいメッセージ。
15曲それぞれが本当に独特の世界観を表現しており、決して一言では表すことができません。手探りで彷徨いながらも、音楽と真剣に向き合い生み出された全ての曲から、彼の強い思いを感じることができます。
楽曲紹介
「YANKEE」に収録されているのは、以下の15曲になります。
- リビングデット・ユース
- MAD HEAD LOVE
- WOODEN DOLL
- アイネクライネ
- メランコリーキッチン
- サンタマリア
- 花に嵐
- 海と山椒魚
- しとど晴天大迷惑
- 眼福
- ホラ吹き猫野郎
- TOXIC BOY
- 百鬼夜行
- KARMA CITY
- ドーナツホール
それでは、それぞれの楽曲についてご紹介していきますね。
リビングデット・ユース
「リビングデッド・ユースは自分の小学生、中学生くらいの頃を思い返して作った曲。」過去のインタビューでそう語る米津玄師さん。学校や友達、さらには家族間での様々な出来事。
同じような時間を過ごしているようで、一人ひとりが全く異なる感情を抱きながら過ごす青春という時間。ならば彼の思い返すそれはどういうものだったのでしょう。
リビングデッド・ユースというタイトルは訳すと「死んだように生きる青春時代」さらに「本当に呪われていると思った時期がある」と自身で語るように、ここで思い返した子供の頃というのは、悲しみや傷み、苦しみを伴うものだったのでしょう。
この曲は、リズミカルに鳴り続けるギターのカッティングがとにかく格好良く、また「つらい、悲しい」といった感情を表すには通常使わなそうな独特の効果音を取り入れており、それがとてもしっくりと耳に残るところもすごいなと思います。
私はこの当時のインタビューが本当に印象的で、この曲について語る米津さんの思いに、ただただ勇気をもらいました。「悲しい」や「苦しい」をそのままに伝えるのではなく、それらを肯定して生きていくことを歌っており、それは歌詞にも、昔の自分に送る前向きなメッセージとして随所に込められているように思います。
悲しみや苦しみはそう簡単に消えないし、忘れられないものでしょう。だけどそれでいいのだと。この曲の様にそう思えると傷みも軽くなるのです。
MAD HEAD LOVE
誰かを愛したい、誰かと愛し合いたい。ラブソングではありながらも、米津玄師さんの歌う「愛」はやはり独特です。一般的にイメージするラブソングと比較すると、この曲はかなりハイテンポで、メロディもリズムも少々激し過ぎるのではないかと思うほどです。
しかし曲を多く聴くにつれて、不思議なくらいそれらが馴染んでくるのです。ここでは、相手を支え助けたり、ともに分かち合い慈しむみたいな優しさとは違うメッセージが込められています。
それは、相手の言っている意味が分からずに抱く嫌悪感であったり、お互いが向き合うことで生じる喧嘩や反発心を愛情と捉え、歌っているところにあります。それらはリズムにもよく表されていて、特にサビのハイハットオープンでは爆破や破壊などのこの曲の狂って暴れているイメージをより掻き立てている感じがします。
また、一定間隔で鳴り続けているゲームのぷよぷよした効果音みたいなのがとても可愛らしく、耳に残ります。打算的な物の考え方ばかりしていると、自分の中の本来の気持ちを押し殺して怒ったり笑ったり泣いたりしてしまうことがあります。
それが自分勝手なものであったとしても、まっすぐに相手に向かっていく盲目さ、エネルギー、熱量。こういう愛が私も欲しかったり、羨ましく思えたりする。そんな一曲です。
WOODEN DOLL
軽快なギターサウンドに、一瞬で引き込まれるWOODEN DOLL。テンポよく、リズミカルな曲調とは対照的に、人間の心の弱さという部分にどこまでも焦点を当て突いたような歌詞がまた印象的であります。
人を見下し、見下され、否定されることに怯え、黙ったまま何も言えない。傷つくのは嫌だから、その前には逃げ出してしまおう。というような、そんな風に後ろ向きに落ち込んでいく弱さを持った自分。
そしてそんな心を持った人に対する救いの想いを込めた米津玄師さんの声と言葉がストレートに届きます。後ろで鳴っているのはグロッケンシュピールなのでしょうか、、。
民族的で優しく、ギターの時折突き刺さる音を少し和らげて聴かせてくれます。あなたが好きだからこそ、ずっとそこにいないで。勇気を持って声を出して。そんなメッセージを持った一曲です。
アイネクライネ
「あたしって言う時の発音が美しい女性が好き」過去のインタビューで米津さん自身が語っていたことをふと思い出しました。このアイネクライネという曲はまさにその「あたし」というフレーズが印象的な、彼のブレスとまっすぐな歌声から始まります。
嬉しく幸せなはずの感情も「永遠に一緒にはいられない」という別れを知る悲しさから切なく描かれています。この曲を聴くと、どうしようもなく泣きたい気持ちになります。
それは好きな人を想うあまり生まれてくる人の弱さや、相手には見せられない内に秘めた闇のようなものが曲を通して届き、それを私たちも持ち合わせているからなのでしょうか。
その一方で、前向きな歌詞を綴り主人公の幸せを肯定しているようにも感じられ、米津さんの言葉に対するこだわりを感じられる一曲です。今や米津玄師の代表曲ともいえる「アイネクライネ」。
東京メトロのCM曲として話題になったそうですが、個人的には結婚披露宴でよくかかっているのを耳にするので、現代版ウエディングソングの定番でもあると感じています。
メランコリーキッチン
個人的な話ですが、私がアルバム「YANKEE」を聴いた際、一番最初に好きになった曲がこの曲です。一番最初にというより、聴いた瞬間好きだなと感じました。
イントロの少しダークで怪しさを纏ったサウンドには無条件で引き込まれますし、歌詞も何というかお洒落。少々無機質で冷たいキッチンにパスタやタルトタタン。それらに混ざり合う男女の恋愛模様。何となく日常的であって良いなあと思いました。
サビの独特なメロディーもかなり好みで、米津玄師さん独特の流れるように歌う言葉も、どこをとっても好きにならないはずがない!と気分を上げてくれます。一番最後のサビに入る前の「もう一度!」を、いつかライブでみんな一緒に叫んで盛り上がりたいと思っております。
サンタマリア
目を閉じると聴こえてくる。それは光へ誘う音。優しいピアノの音色に混じるノイズの様なサウンドは、過去の闇を遡る音。米津玄師さんご自身が完璧だと語る1stシングル「サンタマリア」は彼が前を向いて生きていく為の道しるべを表明した渾身の一曲。
呪いや嘘、沈黙や汚れなど、いつくかの冷たい言葉たちが「あの光の方へ」と力強く歌う米津さんの声と、ストリングスの美しい響きに導かれ、祈りに触れる。それはまるで明日への希望をもたらす賛美歌のように。こ
ちらの楽曲はMVもとても素敵だと思います。モノクロの中に隙間から注ぎ込むいくつもの光。絵本をめくり、次第にユリの花でいっぱいになる米津さん。全てが完成された、光に満ち溢れた名曲です。
花に嵐
花に嵐。真逆のイメージを持つ二つの言葉を合わせ奏でるギターロックナンバー。アルバムの前半、折り返し地点。
うまく表現できないのですが、この位置にこの曲が組み込まれているというのがかなりしっくりくるというか、「この曲を聴きたい!」と思うタイミングがまさにここだな。と思うほどアルバムの中で重要な位置にある曲だと思っております。
アップテンポながらも切なく悲しい情景に優しく前向きに歌う米津さんの声が合わさり心に響きます。嵐、駅、待合室、あなたとわたしと花。様々なキーワードが出てくるなか、自分なりにシチュエーションを想像しながら聴いて楽しむことができます。
ストーリー性がありながらも、はっきりとはわからない二人の関係が聴く側の想像力を掻き立て、ギターの美しい音色がこの曲の世界観をさらに切なくさせている感じがします。本当に美しいです。
また、本人も重要だと語る「いろんな人に花をもらって生きてきた」という一節がこの曲の最後にはあります。花という言葉は、相手の想う愛しい気持ちや周りの誰かの優しさ、温かさなどを表しているのだと思います。
自分は今ここにいて、そしてたくさんの人に助けられて生きてこれているのだと。そういった思いも込められているのでしょう。素敵な曲です。
海と山椒魚
もう会えない大切な人へ。じりじりとした夏の暑さ、暮れてゆく夕陽、揺れる波間と浮かぶ灯火。過去の思い出に一人想いを馳せ、祈る。真夏のキラキラした情景とはまた違う、米津玄師さんならではの、夏を感じる一曲です。
私自身も、この曲を聴くと田舎で過ごす夏のお盆辺りの時期が頭に浮かんだりします。お盆時期になると、大切な人のところにお参りに行ったりしますよね。そこに行く間に必ず通る田んぼやあぜ道、片側にだけ咲く彼岸花など、そういった優しい記憶が頭の中に広がって、なんともノスタルジックな気分にさせてくれます。
全体を通して、小説の一節を切り取ったような歌詞が秀逸です。現代ではなかなか口にすることのないような、和の要素たっぷりの言葉も備わって。本当に詩人ですね。
しとど晴天大迷惑
イントロ流れた瞬間、すぐに楽しい!もう楽しいです、この曲。ライブで披露されるとなれば、それはもうノリノリで、気持ちいいこと間違いなしです。Aメロ途中から混ざり出すギターの音も、サビが始まる直前のリズムも、サビ後半部分の畳み掛けるよつな音も、、もう心も体も自然と踊りだします。
二番のAメロ三三七拍子なんかは、思わず手を叩きたくなりますよね。個人的には「海と山椒魚」に続いて夏っぽい曲、夏に聴きたい曲というイメージです。最初から最後までテンション上がりっぱなしです。
そしてよくこれだけの言葉を並べたというか、本当にたくさんのワードが集結して遊んでいます。だけど言いたいことは意外とシンプルで、「色々あるけど、前を向いて進んで行こうぜ」って歌ってる曲だと思います。
眼福
静寂と雨の音、そして米津さんの優しい声とアコースティックギターの音に包まれ始まる「眼福」最初はアコギでの弾き語りとなっていますが、一番サビ終わりの間奏から別のギターの音色が加わっています。
また、個人的にこの曲ではモノクロに近い情景が浮かんできます。雨や水、バスタブという言葉のせいでしょうか。さらに、ギターの少し歪んだ響きが、ひんやりとした静まったようなニュアンスを生み出していて良い効果を出しているなと思います。
全体を通しての歌詞はシンプルですが、それゆえに一つ一つの言葉が何とも儚げで、愛おしい祈りのようです。いつ別れの日がくるかはわからない。それでもいつかは離れてしまうだろう。それでも今、あなたのいる未来を想っていよう。
それだけて幸せであると。何もないような日常でも、他愛ない会話でも、丁寧に生きていこう。そんな気持ちにさせもらえます。
ホラ吹き猫野郎
冒頭でカラカラした鈴みたいな音色が段々と大きく迫って聞こえてきます。それは徳島の夏の風物詩、阿波踊りの始まりを連想させます。「しとど晴天大迷惑」に続き、かなりお祭り騒ぎなテンポの曲です。
自然と体がリズムにのります。阿波踊りや花火といったキーワードが浮かぶからか、個人的にこちらも夏を想像する曲です。それもまた田舎の夕暮れ時です。米津さん自身も郷愁にかられるような曲を大事に思っており、それに対する憧れや思い出の要素なども歌詞に含まれています。
Cメロの切ない曲調もいいアクセントになっています。難しいことなんて何も考えないで、バカもやってゲラゲラ笑ってみんなで楽しく遊ぼうぜ。気分良く酔って浮ついてぐるぐる回って踊って今日一日を終えようぜ。自然と手を上にあげて一緒に踊ろう、と誘われるような楽しい一曲です。
TOXIC BOY
軽快なリズムと効果音に子供のような声。タイトルのTOXICが「中毒」といった意味を持つように、好きなものや夢中になるものに没頭したり、のめり込んだりして、楽しそうで、だけど少し不気味なサウンドが、この曲全体のイメージを表しているなと思います。
他の曲もそうなのですが、遊び心というか、細かい効果音やギターの音色を巧妙に取り入れているところが米津さん独特だなあとも思いますし、それがYANKEEのアルバムのなかでは、この曲に顕著に表されているなと思います。
そしてサビでは一気に、しっかりとしたギターロックなサウンドに変わります。裏声を使った言葉の響きがさらに曲を盛り上げる、爽快でアップテンポな一曲です。
百鬼夜行
百鬼夜行とは、様々な鬼や妖怪達が列をなして深夜を徘徊する、といった意味があります。イントロのスネアドラムを叩くリズムも、まさにそんな妖怪の行進の始りをイメージさせるサウンドになっています。
米津さん自身、皮肉やアイロニーを詰め込んだ曲と語り、今生きている社会に対する批判や、環境が変わることで感じる居心地の悪さなどが全体を通して表現されています。特に二番のAメロや最後のCメロの歌詞などにはよく表れていているように思います。
個人的な解釈ですが、「新入りですので挨拶に、どうぞよろしく。ここでやってくことは不安もあるし息苦しさは否めない。まあしかし、あれこれ言っても仕方がないから、抱えながらも飛び込んで行こうか。たとえ変わり者だと言われても、妖怪だからな。」と開き直りの珍道中。取り憑かれたような一曲です。
KARMA CITY
初めて聴いた瞬間、仏教的な、かなりスピリチュアルなサウンドだと感じました。最後のサビに入る前の、「戦うやつらは?」のところなんかは、まさに念仏を唱えているかのように聴こえていました。
タイトルのKARMAについて調べてみると、やはり仏教用語にあるみたいですね。カルマとは業のことで、業とは「行い」のこと。そして良くも悪くも、自分の行った行為は遅かれ早かれ巡り巡って自分のもとに返ってくる。そんな意味合いでした。
微妙に変化をつけた歌詞に、追いかけ合う旋律。過去と未来、生と死。どこか不思議な空間に迷い込んだかのような気持ちになる、ミステリアスなアレンジがかっこいいです。僅かな「今」とどう真剣に向き合っていくか。そんなことを考える一曲です。
ドーナツホール
自身のボーカロイド曲をセルフカバーして発表されたドーナツホール。キレのあるドラム音と、繰り返されるギターのメロディ。そして手拍子や裏拍のリズムも気持ちいい。さらにはTOXIC BOYにも出てきた子供の声のようなものも登場し、イントロから気分が上がります。
アップテンポで、ライブでも終盤に差し掛かる頃やアンコールなど、盛り上がりを見せる場面でよく披露されます。私もこの曲で一緒に手拍子をするのが大好きで、ライブの代表曲となっています。
この曲は米津さん自身で手掛けたMVがあり、初音ミクを始めとする4人のボーカロイドキャラクターの表情や動きをとても細かく表情しています。うつ伏せで顔を手で覆っているGUMIが、一番のサビの最後に見せる表情が特に印象的です。曲を通してもMVを観ても、米津玄師のアーティストとしての凄さを味わえる楽曲です。